shishiza

1_ピンクゴールド

 

初めて訪れた南アフリカは、心臓に一番近い場所。

 

そこにいるだけで、いつも鼓動の高鳴りを感じる。

 

ヨハネスブルグからホードスプルート行きの国内線から見下ろした大地は、唸る獣のような体つき。機体の窓から見下ろした美しい大陸の隆起は、躍動する獣の一瞬をとらえたよう。肉体的な大地に見惚れる。真っ青な湖の輪郭は、繊細な羽根と触角をもつ不思議な昆虫のように姿を現した。

 

この旅は、辿り着くまでが気忙しく緊張感に満ちていた。いざアフリカに到着すると、ゆったりとした時が果てしなく流れていく。そこには急くことのできない生き物たちのリズムがあった。

 

ティンババティまで辿り着くと、光の色が気になる。

 

ほのかに薄いピンク色で、金色を同時に感じる。冬の木々の白い棘と光と動植物が調和して、神話的な空気を溢れさせる。流火の瞳に、それはピンクゴールドと映る。そして大地に漂う光と影にも、野生の匂いが潜んでいる。油断はできない獰猛さと色気。流火はこの聖なる光の源に、憧れ続ける。

 

 

太陽は、私を捕まえるつもりかもしれない。

 

流火は静かに汗ばみながら、心底でつぶやいた。「太陽は賢い」と。

 

陽のスポットライトを燦燦と浴びて立ち尽くした。ここで捕まえられたい。ここで自分が本当に更生できたならいい。ここで自分の人生が、天から光の祝福を受けて大地に根を張り、変容するなら。

 

すべての生きものの心臓を一つに集めたかのような力を放つ太陽に、畏敬と、後ろめたさを同時に感じた。光線と物質界が総動員となって生みだす個性豊かな影たちが、土の地面で賑やかに主張し合い、騒ぐ。やがて薄茶色の大地に、滲んで消える。

 

 

=================

 

 

ピンクゴールドの光の空気は、流火に幼い頃のひとつの夢を想い出させた。

 

夢のなかで、流火は、ミラ島で預けられていた孤児院にいた。そこは各部屋と校庭が、大きなガラス窓で仕切られていた。小さな彼女は部屋の中に、そしてガラスのすぐ向こう側には、裸の男女がいた。アダムとイブのように。男が女をお姫様のように抱きかかえている。二人はさほど若くない。女性の肌は、毛穴やそばかすが目立ち、美しくはなかった。それぞれは異なる表情で流火を見つめていた。男は、正面からよく見ておきなさいとでも言うかのように、どこか誇らしげ。女は、ガラスの障壁さえなければ男から飛び降りて、流火の目隠しをしにきただろう。この状況を甘受しながらも恥じらいを滲ませていた。小さな流火は目を見開いたまま、視線をそらすこともできずに固まっていた。隣には、流火よりも背丈の低い小鹿が一頭、寄り添っていた。

 

これは会ったことのない、父と母だろうか。この私も、二人の男女から生まれてきた。生まれてきたはずなのだ。

 

何がそれほど心地悪いのだろう。それはどこか、見てはいけないもの。その二人がひとつになっていることが自分の頭の先から爪先まで、全身にかゆみを起こさせるような不愉快なショックを感じさせた。

 

一方で、この夢の記憶は、どこかティンババティの光と同じ色を帯びていた。

初々しさ。芽吹いたばかりの春のような恥じらい。聖なる幼さ。透明感。・・・

 

この大地に溢れる光そのものが、流火を子供の夢にかえらせた。

 

 

2018/5/25 updated